ジノの来訪 

秋も終わりに近い午後である。星刻は衛兵に呼ばれ、東門へ向かっていた。
さる高名な人物が、天子へ面会を求めているが。服装があまりにラフなので、間違いなく当人かどうか星刻に確認してもらいたい、との話だった。

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ジノの来訪(2) 

解放の翌日──。天子には楽しい思い出と、つらい思い出との、両方が残っている。

その日、朝から昼過ぎまで、ずっと会議に出席していた主君を気遣ったのだろう。星刻が、午後は休むようにと勧めてくれた。
自分がいても役には立たないので、天子はその言葉に従ったものの。すぐには部屋へ戻らず、しばらくロビーで過ごす事にした。

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ジノの来訪(3) 

「ね、星刻も見て。よく撮れているでしょう」
天子は、ジノの持って来てくれた写真を、星刻に見せながら言った。
こうして星刻が、自分の近くに座っているのが、彼女には本当にありがたいと思えるのだ。

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ジノの来訪(4) 

「扇首相の結婚式の時は、まさか天子様が出席されるとは思わなかったって、アーニャが残念がっててさ。だから今回、私が預かって来たんだ。
ブリタニア全土から、アフリカ・ヨーロッパと回っていたんで、だいぶ遅くなっちゃったけど」

ささいな事を、ずっと気に掛けていてくれたアーニャの心遣いが、天子にはとても嬉しく。くれぐれもお礼を言っておいてほしいと、ジノに頼んだのだった。

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ジノの来訪(5) 

天子の願いで、ジノは、しばらく朱禁城に逗留する事となり。翌朝、星刻は、ジノを案内して城内を回った。
ジノは今日も陽気で、人を退屈させないが。さり気なく、病後の自分を案じてくれているのが、横にいる星刻にはわかった。はしゃぎつつも、常に周囲を思いやる細やかさを、持っているのだろう。

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ジノの来訪(6) 

この日以降。
ジノは、午後までは城や、洛陽市周辺を気ままに見学し。夕方からは、執務を終えた天子と、にぎやかに過ごすのが日課となった。

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ジノの来訪(7) 

半月ほど滞在したのち、ジノが朱禁城を発つ事となった。
もう一日もう一日と引き留められ、思わぬ長逗留となってしまったが。次の予定もあり、いつまでも足を止めさせるわけには、いかなかったので。

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香凛さんが誘うのは・・・ 

仕事休みの週末、星刻は、かつての仲間のいる兵舎へ足を運んでいた。
文官となったからこそ、兵士達の日常をよく知っておきたく思ったし。親しい者らと語らうのが楽しみだったのだ。

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香凛さんが誘うのは・・・(2) 

ブリタニア最後の皇帝が日本で暗殺されてより、一年とは経っておらず。歴史に残る大事件は、まだ誰の記憶にも新しいだろう。
洪古にとっては、その翌日の出来事もまた、忘れ難かった。
午後、ホテルの部屋で倒れている星刻を、洪古は発見する事になるのだが。それは悲惨な光景だったから。

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香凛さんが誘うのは・・・(3) 

しばらくして、気が落ち着いてくると──
洪古は次第に、香凛につらく当たった事を後悔するようになった。

責めるべきは、共に星刻のそばにいながら何も気づかずにいた、うかつな自分であるし。最も苦しんでいたのは、他ならぬ香凛だったはずだと。

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香凛さんが誘うのは・・・(4) 

一連の出来事の原因となった黎星刻は、そんな事とはつゆ知らず。
(香凛が誘うとしたら、例の年下の彼氏だろうか) などと、のん気に考えていた。

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天子の宝物 (たからもの) 

激動の年が暮れ、新年 (皇暦でいえば2020年) が明けた。
数日に渡る、新しい年を迎えるための儀式を終えて。年末から宮中行事に忙しかった朱禁城の一同も、ひと息ついているところである。

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天子の宝物 (たからもの) (2) 

応接間に通された商人らは、天子に向かってうやうやしい挨拶を済ますと。
「もうすぐお誕生日だそうですねえ」 と口にしながら、おもむろに、豪華な首飾り・指輪などの宝飾品や、美しい布地類を取り出した。

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天子の宝物 (たからもの) (3) 

こんな場合に星刻が現れるのはタイミングが良すぎるので。おそらく長官が、商人を引き取らせるために呼んだのだろうと、女官長は思った。

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天子の宝物 (たからもの) (4) 

「来てくれてありがとう、星刻」
安心した様子で笑いかける天子へ、星刻も笑みを浮かべ 「いいえ」 と短く応じていたが。
本当に良かったのか、欲しい物があれば言ってほしい、などと付け加えている所が、いかにも彼らしかった。

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天子の宝物 (たからもの) (5) 

星刻の入院中に、神虎のコックピットから見つかったという髪留めは、洪古から天子の手へと渡された。
洪古の、「あの馬鹿者が戻ってくるまで預かってやってほしい」 との頼みで。

当時の激闘を物語るかのように深い亀裂で折れかけた髪留めは、修理も出来ず。退院した星刻も、あなたの好きにしてください、として受け取らなかったので。
そのまま天子が持つ事になったのだ。

「これが星刻の形見にならなくて良かった」
嬉しい時、悲しい時、この髪留めを手にして、天子は心からそう思う。そして、彼の献身に見合うだけの人間にならなくてはと考えるのだが・・・。
こればかりは、なかなか簡単な事ではないようであった。
                                                     (了)

                                       (→「日本にて危機一髪」へ)